賢く買ったつもりが——『メタ思考トレーニング』に学ぶ、買い物の心理

細谷功さんの『メタ思考トレーニング』には、ビジネスの事例がいくつか出てくる。
その一つが、「本体は安く、消耗品で稼ぐ」という仕組み。
読みながら、この仕組みの裏には人の心理がある、と気づいた。それを書いてみたい。

目次

本体は安いのに、後で高くつくビジネス

本書では、プリンターを例に、あるビジネスモデルが紹介されている。本体は安く売って、インクなどの消耗品で長く稼ぐ、という仕組み。

同じような仕組みは、身の回りにいくつもある。

  • ひげ剃り:本体が安くて、替刃で稼ぐ
  • コーヒーマシン:マシンは手頃で、専用カプセルで元を取る
  • スマホゲーム:無料で始められて、アイテム課金で回収する
  • ウォーターサーバー:本体はタダみたいなもので、水の定期購入で利益を出す

どれも「本体は安い(または無料)のに、後で高くつく」もの。

著者は、これをコピー機やエレベーターでも説明している。本体や設置は抑えめにして、その後のメンテナンスや消耗品で収益を上げる、と。

確かに、よくできた仕組みだと思う。

でも、ふと思った。こんな仕組みが成り立つのは、買う人が、その通りに動くから。

本体の安さにつられて買って、消耗品を買い続ける。そういう人の動きがあって、はじめてこの商売が成り立つ。

だとしたら、仕組みそのものより、それを動かしている「人の心理」の方が、気になってくる。

そして、その心理は、こういう仕組みに限らず、モノを買うときのいろんな場面で働いている。

ここから、買い物にまつわる3つの心理を見ていきたい。

なぜ人は、同じメーカーから離れられないのか

一度あるメーカーの製品を選ぶと、なかなか離れられなくなる。なぜか。

理由の一つは、人が「損をするのが嫌い」だから。

たとえば、プリンターのインクをまとめ買いして、本体が壊れたとする。「このインクがもったいない」と思って、つい同じメーカーの新しい本体を買ってしまう。インクを捨てるのは損した気がするし、廃棄も面倒くさい。

冷静に考えれば、別メーカーに乗り換えた方が、結局は安いこともある。でも、「すでに買ったインク」が頭から離れない。

これは、「もったいない」という気持ちが、判断を引っ張っている状態。すでに使ったお金や持っているものに縛られて、合理的じゃない選択をしてしまう。

それに、人は慣れたものを選びたがる。使い方が分かっている、安心できる。新しいメーカーに変えるのは、ちょっとした冒険になる。その冒険を避けたい気持ちが、同じメーカーを選ばせる。

——正直、僕にはこの感覚が薄い。でも、だからこそ、多くの人がここまで「もったいない」「慣れ」に動かされていることが、不思議に見える。

「損したくない」と「慣れたものが安心」。この2つの心理が、一度選んだメーカーから離れられない理由になっている。

なんとなく多機能を選んで、結局使わない

モノを買うとき、機能が多い方が、なんとなく良さそうに見える。

多くの人は、あまり深く考えずに選んでいる気がする。「こんな機能もありますよ」と言われたら、「まぁ、あった方がいいか」と、なんとなく多機能な方を選ぶ。使うかどうかは、あまり考えずに。

そうやって選んだ機能は、使わないだけならまだいい。ときには、ない方がよかった、と思うこともある。

たとえば、エアコンの省エネモード。

会社の事務所なんかで、これがオンになっていることがある。電気代を抑えるためだと思う。でも、そういう部屋にいると、風量が勝手に変わったり、冷房の効きも弱い。なんだか気が散って、集中できない。

冷やしたいからエアコンをつけているのに、省エネモードのせいで冷えない。これでは、本末転倒。

「あった方がいいか」と、なんとなく選んだ機能。でも、本当に必要なのは、シンプルな機能だけ、ということも多い。

——僕は、いらない機能なら、ない方がいいと思う。でも、多くの人は、つい「あった方がいいか」を選んでしまう。

賢く選んだつもりが、「なんとなく」で決めていたのかもしれない。

「専門性が必要」は、思い込みかもしれない

モノが壊れたとき、「専門の業者じゃないと」「純正の部品じゃないと」と思うことがある。

部品については、確かに純正の方が安心なことも多い。でも、業者の方は、本当にそうだろうか。

僕は仕事柄、機械やその修理に触れることがある。その経験から言うと、「このメーカーは特別で、専門の知識がないと扱えない」というのは、あまりない。

また、エアコンの話。メーカーが違っても、構造や仕組みは、だいたい似ている。直す側からすると、「このメーカーだけは別物」ということは、そうない。

そして、使う側からしても、メーカーごとの細かい違いなんて、ほとんどわからない。

なのに、「同じメーカーの専門業者じゃないと不安」と思って、高い費用を払ってしまう。

「専門性が必要」という言葉は、便利に使われている。本当に必要なときもあるけど、そうでないときも、なんとなく「専門じゃないとダメ」と思い込んでしまう。

その思い込みが、余計な出費につながっていることもある。

「専門じゃないと」の一言で、選択肢を手放していたのかもしれない。

まとめ:賢く選んでいるつもりでも

本書のビジネス事例を読みながら、買い物にまつわる心理を3つ見てきた。

同じメーカーから離れられないのは、損したくないから、慣れたものが安心だから。多機能を選ぶのは、なんとなく、あった方がいい気がするから。専門業者にこだわるのは、「専門じゃないと」という言葉に従ってしまうから。

どれも、本人は合理的に選んでいるつもり。でも、振り返ると、何かに動かされている。

「もったいない」「なんとなく」「専門じゃないと」——こういう言葉や気持ちが、知らないうちに、選択を決めている。

本体が安く売られる仕組みも、こういう心理があるから成り立っている。売る側は、人がどう動くかを知っている。

だからといって、心理に逆らえ、という話じゃない。ただ、自分が何に動かされているかを、少し知っておくだけで、選び方は変わるのかもしれない。

賢く選んでいるつもりでも、その「つもり」を、ときどき疑ってみる。それくらいが、ちょうどいい気がする。

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書籍情報

『メタ思考トレーニング 発想力が飛躍的にアップする34問』
著者:細谷功
出版社:PHP研究所(PHPビジネス新書)
発売:2016年

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