『メタ思考トレーニング』に、メタ思考を向けてみた——著者は、なんでこの本を書いたのか

細谷功さんの『メタ思考トレーニング』は、物事を一つ上の視点から考える「メタ思考」を教える本。

読み終えて、ふと思った。この思考を、この本自体に向けてみたら、面白いんじゃないか。

なんで、著者はこの本を書いたのか。教わったばかりの思考で、考えてみたい。

目次

この本に、メタ思考を向けてみた

本書が教えるのは、目の前のことから一歩離れて、一つ上の視点から眺めること。その視点の上げ方の一つが、「そもそも、なぜ?」と目的を問うこと。これを、34問のトレーニングでやらせる本。

その教えの通りに、この本自体へ「なぜ?」を向けてみる。

なんで、著者はこの本を書いたんやろう。みんなにメタ思考をしてほしいのは、なんで?

本の中に、答えは書かれていない。だから、自分で考えてみることにした。

まず引っかかったのは、この本の「形」だった。

なんで「本」で、トレーニングなのか

この本は、34問の演習問題でできている。問題が出て、自分で考えて、解説を読む。その繰り返し。

だから、速読ができない。流し読みしようとしても、問題が出てくるたびに、嫌でも手が止まる。考えさせられる。読み終えるのに時間はかかるけど、理解を深めるという本来の用途で考えれば、僕はこういう本の方が好き。

ただ——トレーニングって、本でやるものなのか。

トレーニングなら、講義でやる方が効くはず。その場でフィードバックがもらえるから、自分の答えがどうだったか、どこがズレていたか、すぐ確認できる。効果だけで考えたら、本より講義の方が、絶対に良いと思う。

じゃあ、なんでわざわざ「本」にしたのか。

ぱっと浮かんだのは、2つ。

ひとつは、講義よりも遠くまで届くから。講義に来られる人は限られている。本なら、会ったことのない人にも届く。

もうひとつは、ビジネスとして。本を読んで「もっと鍛えたい」と思った人が、講義や研修に来てくれたら、本が入口になる。

どっちなのか。著者本人は、どう言っているのか。

著者の言い分を、調べてみた

本の中に答えがないなら、外を探すしかない。著者の細谷功さんが、このあたりのことを語っていないか、調べてみた。

すると、就活情報サイト「理系ナビ」のインタビューが見つかった。本書そのものの話ではないけど、「なんで思考法を教え続けるのか」に近いことが語られている。読んでみると、著者は企業向けの研修や、大学での講義もやっている人らしい。

著者いわく、日本の教育には「全員が同じことをする」「正解を見つける」という考え方が染みついている。それを根底から変えるのは、OSをアップデートするのと同じで、非常に困難——。

その上で、こう続く。

簡単には変わらない困難な問題だからこそ、ビジネスとしても成立する。一人でも二人でも、変わるきっかけを提供できれば

教育の話は、納得だった。義務教育って、言ってしまえばサラリーマンの育成プログラム。言われた通りにやる。みんなと同じことをする。先生から与えられた課題をこなす。苦手なことも、みんなやっているからと我慢してやる。これを、頭の柔らかい時期に、9年間やる。

これを根底から変えるのは、たしかに相当な力が要る。変わりたい本人にも、教える側にも。

そして、もう一つ。「ビジネスとしても成立する」と、はっきり言っているところ。

思想ありきではあると思う。でも、きれいごとで隠さずに、ビジネスとしてやっていると明言している。この、はっきりしている感じが、個人的には好きだった。

さっき浮かんだ2つ——届けたい想いと、ビジネス——どっちも、本人の言葉の中にあった。

ただ、読み返しているうちに、引っかかってきた。「教育を変えたい」は、本当に目的なのか。

「教育を変えたい」は、目的じゃなさそう

著者の言い分を、もう一度考えてみる。

もし、日本の教育を本気で変えたいなら、取る手段はビジネス書や企業研修じゃないと思う。義務教育の内容を変えること。根本はそこで、メタ思考の達人が、そこにたどり着かないわけがない。

それに、対象も気になる。本や研修が届くのは、教育を受け終わった大人。9年間のプログラムが染みついた後の人を変えるより、頭の柔らかい形成期に教える方が、よっぽど効率が良い。

そして、「一人でも二人でも、変わるきっかけを」という言葉。謙虚に聞こえるけど、裏を返せば、本気で変える気がないようにも聞こえる。本気の人は、「一人でも二人でも」とは言わない気がする。

——いや、それは言いすぎか。義務教育なんて、個人の力で変えられるものじゃない。できないから、やれる範囲でやっている。そういう見方もできる。

でも、本当に教育が本丸なら、近づく動きはできるはず。子ども向けの本を書くとか、教育に向けて発信するとか。実際の活動は、ビジネス書と企業研修と大学の講義。一貫して、教育を終えた大人に向いている。

だから、こう読むのが素直な気がする。

「教育を変えたい」は、目的じゃない。「難しい問題に取り組んでいる」という、背景の説明。本当に動かしているのは、ビジネス。

じゃあ、ビジネスのために、この本を書いたのか。

それも、何かが足りない気がした。

まとめ:残ったのは、「好き」だった

ビジネスのためだけ。それだと何が足りないのか、考えてみた。

そういえば、インタビューには、もう一つ気になる答えがあった。仕事の原動力を聞かれた著者が、即座に「好奇心」と答えている。

それで、腑に落ちた。この人はたぶん、考えるのが好きなだけ。

メタ思考を、役に立つ道具としてより先に、面白いものとして見ている。だから広めたかった。使命でもなく、ビジネスでもなく——子供が、好きな遊びを「これおもろいで」と友達に広めるみたいに。

なんで、この本を書いたのか。みんなにメタ思考をしてほしいのは、なんで?

一番しっくりくる答えは、「好きの共有」だった。

そして、ここまで書いて気づいた。

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書籍情報

『メタ思考トレーニング 発想力が飛躍的にアップする34問』
著者:細谷功
出版社:PHP研究所(PHPビジネス新書)
発売:2016年

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